2018年12月9日 日本ヨーガ療法学会中国支部ブロック大会
被虐待経験者のうつ病に対するヨーガ療法指導報告
ヨーガ・セラピー・スーリア 原田 裕子
- はじめに 幼少期より両親からの言葉による脅し,無視,兄弟間での差別などの心理的虐待の他,身体的虐待を受け,自分の感情への気づきやその感情の言語化が困難になり,社会生活に上手く適応できずにうつ病を発症した,生きる気力を持てない女性に対してヨーガ療法がもたらした症状の変化を報告する.
- 症例 【実習者】30歳 女性 身長153cm 体重55kg 無職 【主訴】不安,割れるような頭痛,倦怠感【診断名】X年(30歳)A病院B医師によりうつ病と診断【既往歴】偏頭痛 (28歳)【家族歴】省略【生育・生活歴】省略【現病歴】省略【ヨーガ療法歴/主訴・症状の変化】省略【本人の語りに基づく現状報告】親の態度や言葉を紙に書き出して内容を一緒に確認し,私は悪くないと理解することができたことが私の人生の転換点でした.親から自立するのは恐怖でありとても勇気が要りましたが,人間的にも経済的にも自立し一人暮らしをして,仕事も順調で,生きる世界が変わりました.最近、花を見てきれいだと思えるようになりました.
- 考察 ヨーガ療法実習で,本実習者の記憶の意味づけを健やかに変容させ認知の再構成することで,自分の感情がわかるようになり不安が減少したと推察する.本来の姿である明朗快活である自己を取り戻し,新たな境地を見いだせるようになったことは西洋臨床心理検査得点変化からもアセスメントできたと思う.ヨーガ療法が,その各種技法により頭痛や倦怠感の症状減少という肉体だけでなく,人生の質の向上に寄与し,生きる気力を失っていた心理状態をも健やかに変容させる全人格的教育となった症例であると思われる.
2018年12月2日 日本統合医療学会(IMJ)広島支部研究発表
複数の自己免疫疾患に対するヨーガ療法指導報告
ヨーガ・セラピー・スーリア 原田 裕子
- はじめに 自己免疫疾患とは,異物を認識し排除するための役割を持つ免疫系が,自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまう病気のことで,発症の原因は明らかにされていない.複数の自己免疫疾患を抱え,自己存在そのものを消したい願望のある女性に対して,ヨーガ療法がもたらした症状の変化を報告する.
- 症例 【実習者】35歳 女性 身長153cm 体重46kg パート勤務 【主訴】全身の関節痛・筋肉痛,目眩,吐き気,腹痛,胃痛,動悸,倦怠感,疲労感,蕁麻疹,喘息発作,不安感,劣等感,無力感,消えたい願望 【診断名】X—15年(20歳)A病院B医師に全身性エリテマトーデスと診断,X—12年(23歳)A病院B医師に重症筋無力症,シェーグレン症候群と診断 【既往歴】喘息8歳,パニック症候群22歳,過敏性腸症候群25歳,大腿骨壊死症,拒食症33歳【家族歴】省略【生育・生活歴】省略【現病歴】省略【ヨーガ療法歴/ 主訴・症状の変化】省略【本人の語りに基づく現状報告】ヨーガ療法を実習して「あんたなんか産みたくなかった」と言われ続け,自己存在を否定していましたが,自分のことも母親のことも客観視ができるようになってきました.私も辛いけど母親も辛かったのだと良くわかりました.母親に愛されていると心からわかりましたし,私も母親を愛しているとわかりました.自分は病気であることにこだわって,病気なのにこんなにがんばっていると周りに認めてもらいたいたかったことにも気づきました.病人でなくても私は存在していて大丈夫,病人でいることをやめようと決意するのに3年かかりました.
- 考察 本実習者は精神的虐待を受けて育ったため,母親に怒られるか誉められるかで物事を判断することしか知らず,周囲との人間関係の構築も困難であったようだ.物事の見方や捉え方のほとんどにおいて「私が悪いから怒られる」「私はダメな人間だ」という主観的な捉え方しかできず,客観的に観るという概念そのものがなかったようだ.そのため「私が病気であれば優しくしてもらえる」,「私は病気なのにこんなに頑張っていると人から認めてもらえる」と信じ込んでいたようで,肉体的にも精神的にも多大なストレスを抱えながら生活を送っていたと推察する.病気でいる必要はない,健康になってよいと理解し受け入れるまでに3年という年月がかかったが,ヨーガ療法が,本実習者の本来の姿である明朗快活さや,周りの全てと調和する慈悲深い心の持ち主である自分を取り戻させ,人生の質の向上に寄与することができたのではないかと考えられる.ヨーガ療法が,その各種技法により重症筋無力症による下肢の感覚の鈍さや筋力の弱さを克服するといった肉体だけでなく,精神的虐待によるトラウマが生じている心理状態も健やかに変容させる全人格的教育となり,複数の自己免疫疾患を寛解にまで導いた症例であると思われる.
2013年4月20日第11回 日本ヨーガ療法学会研究総会 学会賞受賞
自殺念慮のある自律神経失調症に対するヨーガ療法指導報告
ヨーガ・セラピー・スーリア 原田裕子
- はじめに 過度のストレスがかかることにより,子どもの頃から長年にわたって自律神経失調症の症状に苦しみ,些細なことでもすぐに死にたいと考えてしまう女性に対するヨーガ療法指導を行った症例を報告する。
- 症例 【実習者】28歳 女性 身長161cm 体重64kg 主婦 【主訴】自殺念慮,頭痛,耳鳴り,めまい,無気力感 【家族歴】省略 【診断名】省略 【既往歴】省略 【現病歴】省略 【生育・生活歴】省略 【ヨーガ療法歴/主訴・症状変化】省略 【本人の語りに基づく現状報告】ヨーガ療法が終わると頭がスッキリして,少しずつ体調が良くなっていました。怒鳴ってばかりいた娘たちに「生まれてきてくれてありがとう」と言って抱きしめられるようになったことがとても嬉しいです。自分でも見違えるほど元気になったと思います。
- 考察 本実習者は,幼少からの過度のストレスが自律神経失調症の発症に大きく影響したと推察される。ヨーガ療法実習でリラックスする感覚を体得し, 自己肯定感が得られたことで,乱れていた自律神経の働きを整え,心と肉体の健やかさを取り戻していったのではないかと推察する。心身の調和をはかるヨーガ療法が,自殺念慮のある自律神経失調症の症状の改善に効果的であることを示した症例であると思う。